復讐心、執着心 | 記録詳細

復讐心、執着心

記録者: 道化師 (ENo. 101)
公開日: 2025-10-13

深い森の中、木漏れ日を受けながら母と二人で野草や薬草の採取に出かける。
幼い僕の手を引く彼女は、いつも優しい目をしていたのを今でも覚えている。

『■■■、これは切り傷に効く薬草よ』
『隣にあるのは毒草だから、間違えないように気をつけてね』

「まちがえたらどうなるの?」

『間違えてしまったらもっと傷が酷くなってしまうわ。治るものも治らなくなってしまう』
『ほら、よく見て■■■。毒草の方は葉の形も違うし小さなトゲもあるでしょう』

こういう小さな違いを見分けるのよ、と微笑みかけてくれる表情は穏やかな陽だまりのように見えた。

そこまで広くない森の中の家で、不便な事も大変な事も沢山あったけど。それでも確かに幸せだった。

その日は少し帰るのが遅くなって、陽が傾いている中慌てて帰っていた。
珍しい木の実を採るのに夢中で気付けば暗くなり始めていたから。

でも家が近づくにつれて違和感を覚えた。いつもついている筈の明かりがついていなかったからだ。
嫌な予感がした。
窓からそっと家の中を覗き込む。

中は酷い有様だった。
家具は倒れ、物が散乱し、一目見て荒れていると分かる。
思い出したくないくらいの惨状。
ただ殺されているだけならまだ良かったとすら思える。
これが人の為す事なのかと、子ども心でも感じた。

母は魔女だった。当時『魔女狩り』が盛んに行われていて、彼女はその被害に遭った。
大分後になってから知ったけど、僕の父親は悪魔らしい。
だから魔女と悪魔の混血ハーフということになる。
ある時期から成長が止まった。不死かは分からないが、少なくとも寿命で死ぬ事はなさそうだ。
そうであるなら、むしろ好都合。

赦せなかった。酷く憎んだ。
その男を殺すだけでは到底足りない。
その血を持つ者を。その家を。
未来永劫呪ってやれるのだから。