暗い路地裏、雨の音。広がる赤に引き攣った声。
ゴミ山の上に座って、ナイフを片手で弄ぶピエロ。
『お前、知ってるぞ…!ファントムだろ…?!』
ターゲットである男が叫ぶ。
ピエロマスクの下で小さく溜息を吐いた。
『何故オレなんだ?!いや、どうしてオレの『血筋だけ』を狙うんだ!』
おや。流石に長年続けていればターゲットの法則性くらいは分かるか。
それもそうだよなぁ。
被害者達も、そして周りも。時代が進むにつれて賢くなっている。
全く厄介な事だ。
まぁそれでも、犯人は捕まえられないだろうが。
「冥途の土産にと言いたい所だけども、誰に聞かれてるかも分からないし。
録音されてちゃ困るから言えないな」
「聞きたいなら御許でお前達の先祖に聞くんだね」
『オレ達が何を』
言い終わる前に投げられたナイフは言葉ごと命を絶った。
凶器は霧のように。蜃気楼のように。空気に溶けて消える。
「お前達にとっては理由も分からないのは当然だろうな」
だってこれはずっと続けている復讐だ。
一度に殺さず、何代にも渡ってじっくりゆっくりと狩り続けている。
己が人ではなくて良かった。人間であればとっくのとうに寿命で死んでいるだろう。
立ち上がり、地面に飛び降りる。
爪先が触れれば音もなく幻影のように姿が消え失せた。
残ったのは静寂のみ。