人間は嫌いだ。
浅ましく、身勝手で、自分の都合の悪い事は抹消しようとする。
消してしまえば無かった事になると思っていたのだろうか。
だとすればとんだ勘違いだ。
全員がそうではないとは分かってはいるが、それでも嫌いな事に変わりはなかった。
……筈だった、けど。
このカフェに通って、色々と変わった事もある。
大きく変わった事は二つ。
一つは僕を師事するヒトが三人も増えたこと。
もう一つは……
大切にしたいと思う人間ができたことだ。
永く生きてきてこんな事は初めてな上、嫌いな筈の人間をそう思うなどと自身に吐き気すらした。
けれど、彼女と話していて楽しかったのも本当だ。それに嘘偽りはない。
初めはただの庇護欲からで、今でもそれは抱えたまま。
それに愛おしさも乗っかったのは、贈る花を決めた時。
深く考えず、受け取ってくれるだろうと思っていた。
それはそれで構わなかった。取り繕うのは慣れているし、今の関係でも充分だったから。
しかしふと思ったのだ。
あのカフェがこのまま在り続ける保証はどこにもなく。仲良くなったヒト達と逢えなくなる可能性もあると。
…だから。後悔しないように。
手元には新しく買った赤とピンクのチューリップが合わせて三本。
彼女が枯らしていなければ、以前贈った花を含めて四本。
『会いに行く』と告げたのだから、言葉通りに向かわないとね。
そして次こそきちんと言葉で告げよう。
「君を誰よりも幸せにする。
誰よりも愛する。
君の事が好きなんだ。一人の女性として。
だから、君さえ良ければ。
僕と付き合ってくれませんか」
盛大にフラれたら、笑い話にでもしよう。
でも。もし。もし、告白を受けてくれたなら。
全てをかけて彼女を幸せにしてあげたいと思っている。
そんな想いを胸に、彼女が居る世界へ飛んだ。