華やかで、どこか幻想的な景色が心の中に広がる。
城塞に囲まれた都市の中を、魅力的な
仮面と
踊り子が行き交う。
リュートの音に合わせ、踊る幻想的な仮装達。
「こんなに楽しい景色なのに、何であなたはそんな顔をしているの?」
「ああ、とても素晴らしくて、夢のような景色だ」
「けれど、こうも思ってしまう。
彼ら、彼女らは華やかな仮面や仮装の下で、どこか悲しげに見えるんだ」
「耳をすませてみて。
短調の調べで歌うのは、勝ち誇った愛や成功した人生」
「けれど、自らの幸せを信じていないようで。
その歌声は、月の光の中に溶けていく」
爽やかな、夢のように煌めく、青い空の下の光。
軽やかで、煌めいていて、胸が高鳴るようで、けれど、ほんの少しの不安が残っていて。
華やかな午後。けれどそれは満ち足りたものではなく。
陽が落ちていくにつれ、心の中に焦燥感が広がり、世界が夕焼けの赤に染まる。
そして、静寂。陽は完全に沈み、深い夜の街を月の光が優しく包み込む。
「そう、どんなに華やかな貴婦人の横顔の裏に不安や悲しみ、焦りの一面があるように。
輝く陽はやがて落ちて、暗い夜の中に月が浮かぶ」
「ずっと、ずっとこの穏やかな夜が、続けばいいのにね。
悲しみに寄り添い、拭ってくれる、静かな月夜が」
「けれど、そうはならない。そうはならないんだよ。
月だって、光がなければ輝くことすら出来ない。光がなければ、その目に月が映ることはない」
「永遠なんて、ないんだよ。きっとね」
華やかな昼も、穏やかな夜も、永遠ではない。
月が沈み、朝の陽の光が差し込み、夢から目覚めれば、またいつも通りの平坦な日々が繰り返される。
けれど、今だけは、月の光が悲しみを拭う、静かな夜に身を委ねたい。
悲しくも美しい月の光の静けさが、
木々の小鳥たちに夢を見させる。
そして、噴水をうっとりと啜り泣かせる。
大理石の像の間で優しく吹き上げる噴水を。

「それでも、私は」

「『きみ』が見えない昼よりも、『きみ』が一緒の夜がいい」